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東京地方裁判所 平成6年(ワ)16131号 判決 1995年9月19日

原告

原春夫

ほか四名

被告

椎名孝之

ほか五名

主文

一  被告椎名孝之、同椎名敏夫及び同手塚修は、各自、原告原春夫に対し金七二一万三五七〇円、同原まち子に対し金六〇九万三五七〇円、同松本敏夫に対し金六〇九万三五七〇円、同矢代隆男に対し金一〇二五万五七八四円、同矢代とし子に対し金九三七万二六四二円、及びこれらに対する平成五年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三井海上火災保険株式会社及び同興亜火災海上保険株式会社は、各自、原告原春夫に対し金四五五万二三二二円、同原まち子に対し金三八四万五五一四円、同松本敏夫に対し金三八四万五五一四円、同矢代隆男に対し金七三九万五四七八円、同矢代とし子に対し金六七五万八六四二円、及びこれらに対する平成六年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告森戸茂に対する本件請求及びその余の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用のうち、被告森戸茂に生じたものは原告らの負担とし、その余の分は、これを五分し、その二を原告らの、その余を被告森戸茂を除く被告らの各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告椎名孝之及び同手塚修は、各自、原告原春夫に対し金一四七三万五八六八円、同原まち子に対し金一三四三万五八六八円、同松本敏夫に対し金一三四三万五八六八円、同矢代隆男に対し金一八五二万二九七〇円、同矢代とし子に対し金一六八二万二九七〇円、及びこれらに対する平成五年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告椎名敏夫、同森戸茂、同三井海上火災保険株式会社及び同興亜火災海上保険株式会社は、各自、原告原春夫に対し金八九六万二二三三円、同原まち子に対し金七七六万二二三三円、同松本敏夫に対し金七七六万二二三三円、同矢代隆男に対し金一四七五万四一二〇円、同矢代とし子に対し金一三五五万四一二〇円、及びこれらに対する平成五年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、信号により交通整理のされた交差点において普通乗用自動車と大型貨物自動車との衝突があり、普通乗用自動車に同乗していた者二名が死亡したことから、それらの相続人が普通乗用自動車及び普通貨物自動車の運転者及び運行供用者並びに自賠責保険会社を相手に損害賠償を求めた事案である。

双方の運転者ともに自己の信号が青であつたとして免責を求めている。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成五年一月一一日午前二時ごろ

事故の場所 千葉県木更津市菅生八一八―一〇先交差点(以下「本件交差点」という。)

関係車両 (1) 普通乗用自動車(袖ケ浦三三ろ二六〇五。以下「椎名車」という。)。被告椎名孝之(以下「被告孝之」という。)が運転。

(2) 大型貨物自動車(栃木一一は一三二〇。以下「手塚車」という。)。被告手塚修(以下「被告手塚」という。)が運転。

被害者 訴外原晃一(以下「訴外晃一」という。)、同矢代芳恵(以下「訴外芳恵」という。)。いずれも椎名車に同乗

事故の態様 被告孝之が椎名車を運転して本件交差点を木更津市清美台東三丁目方向から椿方面に右折しようとしたところ、椿方面から祇園方面に本件交差点を直進通過しようとした被告手塚運転の手塚車と衝突した。

事故の結果 被害者は、いずれも脳挫傷等により死亡した。

2  責任原因

(1) 被告椎名敏夫は、椎名車の所有者であり、運行供用者である。

同被告は、平成四年七月三〇日、被告三井海上火災保険株式会社との間で、椎名車につき、保険期間を同年七月三一日から平成六年七月三一日までとする自賠責保険契約を締結した。

(2) 被告手塚は、手塚車の運行供用者である。

被告森戸茂は、平成四年三月二五日、被告興亜火災海上保険株式会社との間で、手塚車につき、保険期間を同年三月二五日から平成五年三月二五日までとする自賠責保険契約を締結した。

3  損害の填補

(1) 被告三井海上火災保険株式会社は、自賠責保険金として、訴外原晃一損害分のうち金一七七五万六六五〇円を、訴外芳恵損害分のうち金一五八四万五八八〇円を、それぞれ填補した。

(2) 被告興亜火災海上保険株式会社は、自賠責保険金として、訴外原晃一損害分のうち金一七七五万六六五〇円を、訴外芳恵損害分のうち金一五八四万五八八〇円を、それぞれ填補した。

三  本件の争点

1  本件事故の態様及び免責の成否

(一) 原告ら

(1) 被告孝之は、本件交差点の対面赤信号を無視して、同交差点を漫然右折進行したことにより、手塚車と衝突した。その時の手塚車側対面信号は、青色ないし黄色を示していたと考えられる。被告孝之は、民法七〇九条の責任を免れない。

(2) 被告手塚は、本件交差点の対面赤信号を無視して、漫然進行したことにより、椎名車と衝突した。その時の椎名車側対面信号は、青色ないし黄色を示していたと考えられる。被告手塚は、民法七〇九条の責任又は自賠法三条の責任を免れない。

(二) 被告孝之、同椎名敏夫

被告孝之は、本件交差点の対面青信号に従つて右折しようとしたところ、本件交差点の対面赤信号を無視して直進した手塚車と衝突したのであり、本件事故は、被告手塚の一方的な過失によるものであり、免責を主張する。

(三) 被告手塚、同森戸茂、同興亜火災海上保険株式会社

被告手塚は、本件交差点の対面信号が青であることを二度にわたつて確認した上、同交差点を直進しようとしたところ、被告孝之は、アルコールを帯びて椎名車を運転し、本件交差点の対面赤信号を無視して右折したため、手塚車と衝突したのであつて、本件事故は、被告孝之の一方的な過失によるものであり、免責を主張する。

2  被告森戸茂の責任

(一) 原告ら

被告森戸茂は、手塚車の保有者であり、これを被告手塚に貸与したから、同車の運行供用者である。

(二) 被告森戸茂

同被告は、平成二年一二月一四日に栃木日野自動車に手塚車を売却しており、名義残りに過ぎず、同車の運行供用者であることを否認する。

3  損害額

(一) 原告らの主張

(訴外晃一関係)

(1) 訴外晃一の損害

<1> 逸失利益 四八九二万〇九〇六円

訴外晃一は、死亡当時二〇歳の独身男性であるから、平成四年の男子全学歴全年齢の賃金センサスによる男子平均賃金年額五四四万一四〇〇円を基礎とし、生活費控除率を五割として、ライプニツツ方式(係数一七・九八一)により算定。

<2> 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

(2) 損害の一部填補及び相続

右の合計は六八九二万〇九〇六円であるところ、自賠責保険からの填補分を控除すると三三四〇万七六〇六円となり、これを訴外晃一の養父である原告原春夫、実母である同原まち子、実父である同松本敏夫は、それぞれその三分の一である一一一三万五八六八円ずつ相続した。

(3) 原告原春夫の固有の損害

原告原春夫は、訴外晃一の葬儀費として少なくとも一二〇万〇〇〇〇円を負担した。

(4) 弁護士費用 合計七〇〇万円

ただし、原告原春夫分二四〇万円、同原まち子分二三〇万円、同松本敏夫分二三〇万円の合計である。

(訴外芳恵関係)

(1) 訴外芳恵の損害

<1> 逸失利益 三九三三万七七〇一円

訴外芳恵は、死亡当時一八歳の独身女性であるから、平成四年の女子全学歴全年齢の賃金センサスによる女子平均賃金年額三〇九万三〇〇〇円を基礎とし、生活費控除率を三割として、ライプニツツ方式(係数一八・一六九)により算定。

<2> 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

(2) 損害の一部填補及び相続

右の合計は五九三三万七七〇一円であるところ、自賠責保険からの填補分を控除すると二七六四万五九四一円となり、これを訴外芳恵の実父である原告矢代隆男及び実母である同矢代とし子が、それぞれその二分の一である一三八二万二九七〇円ずつ相続した。

(3) 原告矢代隆男の固有の損害

原告矢代隆男は、訴外芳恵の葬儀費として少なくとも一二〇万〇〇〇〇円を負担した。

(4) 弁護士費用 合計六一〇万円

ただし、原告矢代隆男分三一〇万円、同矢代とし子分三〇〇万円の合計である。

被告孝之及び同手塚に対しては、右金額の各原告についての合計額を、その余の被告らに対しては、自賠責保険金の限度額が三〇〇〇万円であることを考慮して請求の趣旨どおり請求する。

(二) 被告ら

原告らの主張を争う。

被告孝之及び被告椎名敏夫は、特に、次の点を主張する。

(1) 被害者らの逸失利益

訴外晃一は、中学卒業後給料を得ていたから、現実の利益を基礎として逸失利益を算定すべきである。

訴外芳恵も同様である。

(2) 慰謝料

死亡慰謝料は、高額に失する。

4  好意同乗減額

被告らは、被害者はいずれも被告孝之が酒気を帯びているのを承知の上で椎名車に同乗したから、椎名車、手塚車いずれに対する関係でも、損害額を減額すべきであると主張する。

5  一部弁済

(一) 被告椎名敏夫

被告椎名敏夫は、同被告らが本件交通事故について責任を負うならば賠償金に充てるとの趣旨で、原告原春夫に対して一〇〇万円を交付した。

(二) 原告原春夫

右事実を否認する。単なる貸金として受領した。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

1  甲一、二の1、2、被告孝之、同手塚各本人、前示争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 本件交差点は、木更津市清美台東三丁目方面と同市十日市場方面を結ぶ片側一車線の市道(以下「椎名側道路」という。)と、同市椿方面と同市祇園方面を結ぶ幅員七メートル、片側一車線の国道四〇九号(以下「手塚側道路」という。)とが直角に交わる、信号により交通整理のされた交差点である。

椎名側道路は、最高速度が時速四〇キロメートルに制限された平坦な道路であり、本件交差点の清見台東三丁目方面一九・六メートルのところにJR久留里線の踏切があり、その踏切を隔てて幅員五メートルの道路と交差している。そして、右交差道路から清見台東三丁目方面寄りは、歩車道の区別された車道の幅員七メートルの道路であるが、右踏切と本件交差点との間は、椿方面側には歩道がなく、本件交差点入口では車道の幅員が一二・七メートルと広くなつている。手塚側道路も最高速度が時速四〇キロメートルに制限された平坦な道路であり、車道の幅が二・七メートルないし二・八メートルであり、両側とも外側線から〇・三メートル隔てて幅〇・四メートルの有蓋側溝がある。手塚側道路は、椿方面から本件交差点までは一直線となつている。

本件交差点の椎名側道路の清見台東三丁目方面側と手塚側道路の椿方面側との角には二階建の建物があり、また、そこから椿方面側には民家が立ち並んでいて、いずれの側からも相手の側の道路の状態が分からない。

(2) 被告孝之は、訴外晃一と同じ店で、一緒に板前の下働きの仕事をしていたが、平成五年一月一〇日夜九時過ぎに同店を引き払い、訴外晃一を家まで送るべく椎名車に同乗させた。途中で同被告の友人である池田純子(以下「池田」という。)からポケツトベルが入り、同女と訴外芳恵も同乗して居酒屋に赴くこととなつた。居酒屋では二時間以上かけて飲食したが、その間にブランデー一本を四人で空け、同被告は少なくともブランデーの水割り四杯を飲んだ。一行は、居酒屋を出て、訴外芳恵を送る途中で弁当屋でジユースを一本ずつ飲み、椎名車の、同被告が運転席に、池田が助手席に、被害者らが後部座席にそれぞれ座り、清見台東三丁目方面から時速約五〇キロメートルの速度で本件交差点に向かつた。そして、同被告は、JR久留里線の踏切を渡り、本件交差点の手前一五・七メートルの地点で、池田から右折するように指示され、ブレーキを掛けながら進行し、本件交差点に進入した。そして、手塚車を未発見のまま交差点内で衝突した。

本件事故後の警察による検査では、被告孝之は、血液一ミリリツトルにつき〇・二一ミリグラムのエチルアルコールを含有していたことが判明した。また、実況見分において、同被告は、本件交差点の対面信号から七三・〇メートル、五七・五メートル、三九・四メートルの地点及び池田から右折するように指示された地点(対面信号から二四・四メートルの地点)で対面信号が青色であつたこと、このうち、七三・〇メートルの地点では減速したが、三九・四メートルの地点からは加速したこと、池田から右折するように指示された後、九・五メートル進行した地点(対面信号から一四・九メートルの地点)では、池田に気を向けて進行したことを説明している。

(3) 被告手塚は、平成五年一月一〇日夜八時過ぎに、手塚車に採石一五ないし二〇トンを積載して、栃木の自宅を出発し、翌一一日午前一時四〇分ころ木更津コンクリートに到着した。そして、採石を下ろしてから午前二時ころ同所を後にして、前照灯を点けて時速五〇ないし五五キロメートルの速度で走行し、二、三分を要して椿方面から本件交差点に到達した。そして、本件交差点内で椎名車と衝突し、本件交差点に五・六メートル入つたところから四条のスリツプ痕(そのうち後輪のスリツプ痕の長さは一三・四メートルである。)を残しながら、斜め右前の倉庫の壁に椎名車とともに衝突した。

本件事故直後に行われた実況見分において、被告手塚は、本件交差点の対面信号から一九二・六メートルの地点で速度メーターを確認したこと、一二二・〇メートル、五〇・五メートルの各地点で対面青信号を確認したこと、それから三〇・三メートル進行した、本件交差点から二・一メートル手前の椿側の横断歩道上の地点で、本件交差点に進入しようとする椎名車を発見して、急ブレーキを掛けたが本件交差点内で椎名車と衝突したことを説明している。以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  被告孝之は、本人尋問において「実況見分の時に説明したのと同様の状況で進行した。対面信号が青であつたことは間違いない。アルコールには強いほうなので、その影響はないと思つた。池田から右折するように指示された地点では時速三〇キロメートルは出ていないと思う。池田に気を向けて進行した地点でも信号は青であり、このことを警察に言つた。」と供述する。

他方、被告手塚は、本人尋問において「実況見分の時に説明したのと同様の状況で進行した。本件交差点の対面信号から五〇・五メートルの地点で青信号を確認した後は、意図的に確認したわけではないが、対面信号が視野に入つており、青色であつた。本件交差点の進入に当たり減速はしなかつた。」と供述する。

3  そこで検討すると、両被告の供述は、真向から対立するが、両被告の実況見分の時の各説明は、いずれもそれ自身矛盾するところはない。そして、両被告とも、実況見分の時に対面信号に最も近いところで対面信号の色が青であつたと説明した地点(被告孝之につき二四・四メートルの地点、被告手塚につき五〇・五メートルの地点)から先について、本人尋問において、その後も対面信号が青色であつたと供述する。しかし、警察の実況見分においては、両被告とも、色々な地点からの対面信号の色について丹念に説明しているのに、前示各地点から先については信号の色に触れていないこと、特に、被告孝之については、池田に気を向けて進行した地点では、まさに助手席の池田に気を向けて進行したのであつて、対面信号を見ることが困難であるはずであることから、右各本人尋問における供述は、いずれも採用し難い。両被告の右各地点より手前の地点における対面信号に関する供述は、いずれが真実であるのか、他の証拠関係や状況から判明しない。

4  次に、前認定の事実及び被告孝之の実況見分の時の説明によれば、同被告は、本件交差点への進入の前に、池田に気を向けて進行し、かつ、手塚車を未発見のまま交差点内で衝突したのであり、本件交差点進入に当たり前方の注視を欠いたことが明らかである。また、酒気を帯びて椎名車を運転したのであつて、仮に対面信号が青色であつたとしても、前方不注視や酒気帯び運転がなければ 手塚車の前照灯に気がついて事故を未然に防止すること、少なくとも本件のような重大な結果が生じるような事態を招来せしめなかつたことが可能であつたというべきであるから、同被告には、本件事故につき、前方不注視等の過失があることとなる。このため、被告椎名敏夫及び同三井海上火災保険株式会社については、免責を認めることができない。

5  他方、被告手塚については、前示のとおり、本件交差点の対面信号から五〇・五メートルの地点以降については、対面信号が青色であつたことを認めるに足りる確たる証拠がない上に、制限時速が四〇キロメートルのところを一〇ないし一五キロメートル超過して本件交差点に進入したのであるから、自賠法三条の免責要件を立証したものということができず、同被告及び被告興亜火災海上保険株式会社の免責を認めることができない。

二  被告森戸茂の責任

丙一、二、被告手塚本人によれば、被告森戸茂は、手塚車を所有していたところ、平成二年一二月一四日、栃木日野自動車に下取車として売却し、これを平成三年三月一八日に被告手塚が購入したこと、同被告らは親戚の関係にあり、被告森戸茂の税金対策上、名義は同被告のままとしたが、車検の費用、自賠責保険の費用等一切は、被告手塚が負担し、被告森戸茂は、下取後に手塚車に係わつていないことが認められる。

右事実によれば、被告森戸茂は、手塚車を栃木日野自動車に下取車として売却したときから同車を自己のための運行の用に供していないことが明らかであり、原告らの同被告に対する請求は、その余を判断するまでもなく理由がない。

三  損害額

1  訴外晃一関係

(1) 逸失利益 四三三四万五八九七円

前認定の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、訴外晃一は、中学卒業後、板前の下働きをしていたこと、死亡当時二〇歳の独身男性であつたことが認められる。なお、死亡当時の同人の収入の額を知る証拠はないが、板前の下働きであつて、同収入を基礎としてその後の逸失利益を算定するのは相当でない。

そこで、訴外晃一の逸失利益は、平成四年の男子中卒全年齢の賃金センサスによる平均賃金年額四八二万一三〇〇円を基礎として算定することとし、生活費控除率を五割として、ライプニツツ方式(就労可能年数四七年の係数一七・九八一)により算定すると前示の金額となる。

482万1300×0.5×17.981=4334万5897

(2) 慰謝料 一八〇〇万〇〇〇〇円

本件事故の態様、訴外晃一の年齢、後記認定の家族上の立場、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、訴外晃一の死亡に対する慰謝料として一八〇〇万円が相当である。

(3) 原告原春夫の損害

甲三の1ないし18に弁論の全趣旨を総合すれば、原告原春夫は、訴外晃一の葬儀費として一六六万二三一九円を負担したことが認められ、このうち一二〇万〇〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害として認める。

2  訴外芳恵関係

(1) 逸失利益 三九三三万七七〇一円

弁論の全趣旨によれば、訴外芳恵は、死亡当時一八歳の独身女性であることが認められる。なお、死亡当時の同人の職業及び収入の額を知る証拠はないが、招来婚姻して専業主婦となることも予想されることから、平成四年の女子全年齢の賃金センサスによる女子平均賃金年額三〇九万三〇〇〇円を基礎として同人の逸失利益を算定するのが相当であり、生活費控除率を三割として、ライプニツツ方式(就労可能年数四九年の係数一八・一六九)により算定すると前示の金額となる。

309万3000×0.7×18.169=3933万7701

(2) 慰謝料 一八〇〇万〇〇〇〇円

本件事故の態様、訴外芳恵の年齢、後記認定の家族上の立場、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、訴外芳恵の死亡に対する慰謝料として一八〇〇万円が相当である。

(3) 原告矢代隆男の損害

甲四の1ないし三に弁論の全趣旨を総合すれば、原告矢代隆男は、訴外芳恵の葬儀費として九四万四八七四円を負担したことが認められる。

四  好意同乗減額

前認定の事実によれば、訴外晃一及び同芳恵は、いずれも、被告孝之と同道して居酒屋に行き、池田とともに四人でブランデー一本を空け、同被告が少なくともブランデー水割り四杯を飲んだことを認識して、深夜の二時ころに同被告の運転する椎名車に乗つていたのであり、同訴外人らは、積極的に危険発生に関与したものと評価することができる。

もつとも、被告孝之のアルコールの血中濃度は、一ミリリツトル当たり〇・二一ミリグラムと比較的低レベルであることも斟酌すると、前認定の各損害については、いずれの被告に対する関係でも、その一五パーセントを減じるのが相当である。そうすると、損害額は、次のとおりとなる。

1  訴外晃一関係

(1) 逸失利益分と慰謝料分の合計 五二一四万四〇一二円

(2) 原告原春夫の損害分 一〇二万〇〇〇〇円

2  訴外芳恵関係

(1) 逸失利益分と慰謝料分の合計 四八七三万七〇四五円

(2) 原告矢代隆男の損害分 八〇万三一四二円

五  損害填補後の損害額及び相続

1  前示のとおり、被告三井海上火災保険株式会社及び被告興亜火災海上保険株式会社は、自賠責保険金として、いずれも、訴外晃一損害分のうち金一七七五万六六五〇円を、訴外芳恵損害分のうち金一五八四万五八八〇円を、それぞれ填補したのであり、原告らは、これらの金員を各訴外人の逸失利益分と慰謝料分の合計に充当すべきことを主張しているので、そのように充当すると、各訴外人の逸失利益分と慰謝料分の残額は、次のとおりとなる。

(1) 訴外晃一 一六六三万〇七一二円

(2) 訴外芳恵 一七〇四万五二八五円

2  原告原春夫は訴外晃一の養父であり、同原まち子は訴外晃一の実母であり、同松本敏夫は訴外晃一の実父であること、及び原告矢代隆男は訴外芳恵の実父であり、同矢代とし子は訴外芳恵の実父であることは、原告らと被告孝之及び同椎名敏夫との間で争いがなく、その余の被告との関係では弁論の全趣旨によりこれを認める。

そうすると、原告原春夫、同原まち子及び同松本敏夫は、訴外晃一の右損害の残額一六六三万〇七一二円をそれぞれその三分の一である五五四万三五七〇円ずつ相続し、また、原告矢代隆男及び同矢代とし子は、訴外芳恵の右損害の残額一七〇四万五二八五円をそれぞれその二分の一である八五二万二六四二円ずつ相続したこととなる。

3  従つて、各原告の損害額は、次のとおりとなる。

(1) 原告原春夫 六五六万三五七〇円

(2) 原告原まち子及び同松本敏夫 各五五四万三五七〇円

(3) 原告矢代隆男 九三二万五七八四円

(4) 原告矢代とし子 八五二万二六四二円

六  一部弁済

被告椎名敏夫は、同被告らが本件交通事故について責任を負うならば、賠償金に充てるとの趣旨で、原告原春夫に対して一〇〇万円を交付したと主張するが、被告孝之本人によれば、被告椎名敏夫は、同原告から本件事故後に保険金で返すから貸してほしいと頼まれ、同原告に一〇〇万円を交付したことが認められ、右金員の交付に被告椎名敏夫主張のような趣旨が含まれていたとは認め難いから、同被告の主張には理由がない。

七  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、原告ら各人につき、それぞれ次の金額をもつて相当と認める。

(1)  原告原春夫 六五万円

(2)  原告原まち子及び同松本敏夫 各五五万円

(3)  原告矢代隆男 九三万円

(4)  原告矢代とし子 八五万円

第四結論

よつて、原告らの本件請求は、

1  被告孝之、同椎名敏夫、同手塚に対しては、同被告ら各自、原告ら各人につきそれぞれ次の金額及びこれらに対する本件事故の日である平成五年一月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(1)  原告原春夫 七二一万三五七〇円

(2)  原告原まち子及び同松本敏夫 各六〇九万三五七〇円

(3)  原告矢代隆男 一〇二五万五七八四円

(4)  原告矢代とし子 九三七万二六四二円

2  被告三井海上火災保険株式会社及び被告興亜火災海上保険株式会社に対するものは、同被告らが、いずれも、訴外晃一損害分のうち金一七七五万六六五〇円、訴外芳恵損害分のうち金一五八四万五八八〇円を、それぞれ填補したことから、自賠責保険金三〇〇〇万円の残額は、いずれの被告に対する関係においても、訴外晃一損害分につき金一二二四万三三五〇円、訴外芳恵損害分につき金一四一五万四一二〇円となり、原告らは、同被告ら各自に対して、これらの金額を限度として自賠法一六条に基づく損害賠償額の支払いをなすべきこれを請求することができることとなる。そして、これらの金額は、右各原告の損害額の合計額に満たないことから、被害者ごとの原告らの損害額で按分比例するのが相当であり、原告らが同被告らに対してそれぞれ求め得る損害賠償額は、次の金額となる。

(1)  原告原春夫 四五五万二三二二円

(2)  原告原まち子及び同松本敏夫 名三八四万五五一四円

(3)  原告矢代隆男 七三九万五四七八円

(4)  原告矢代とし子 六七五万八六四二円

また、同被告らの自賠法一六条に基づく損害賠償額の支払債務は、原告らから請求を受けた時にはじめて遅滞に陥るから、原告らの同被告らに対する請求は、同被告らに対し、各自、前示の各金額及びこれらに対する同被告らに対して本件訴状が送達された日の翌日である平成六年九月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があることとなる。

3  その余の請求は、いずれも理由がないから棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

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